(短編集)ベッドサイドストーリー・1


 そんなことをだだーっと心の中で考えたあと、私はきっぱりと言った。

 電話にむかって。

「楽にしてて。今から行くから」

 え?って受話器の向こうでは言ってたと思う。だけどすでに私はスイッチがオンモードに切り替わっていて、放り投げるように電話を壁に戻してからパジャマに手をかけた。

 ラッキーだったわ、だってまだ今晩はお風呂上りにって飲むいつものアルコール摂取もしてないもの。飲酒してたらこんなことだって不可能になる。

 ダッシュで着替える。それからそれから、車のキーと家の鍵と財布───────────

 そんなわけで、私は深夜の世界へと飛び出したのだった。


 彼、中川晃一とは3年の付き合いになる。

 実際は会社と関係のない趣味のサークル活動で知り合った男性で、知り合いから友達へと昇格し、それから恋人になったのはここ8ヶ月のことだった。

 イケメンというには無理があるけれども、落ち着いた眼差しと大きめの口元は初対面の時から好印象を持っていたし、映画鑑賞が趣味という割りには鍛えられた体も魅力的だった。ちょっと独特な低い声と長い指をもっていて、彼はいつどこにいても、淡々と自分の世界を維持しているような雰囲気がある人だった。

 体の関係が出来て、それから恋心なんてものも生まれた。だけど基本は友達の時のような信頼と気楽な感じで一緒にいる時には最高に楽しめるという間柄だったし、何より彼はよく話を聞いてくれる人だった。

 会社のこと、結婚してしまった友達のこと、それから今日のご飯やついてなかったこと。

 私の口からどんどんあふれ出す言葉たちを、いつでも電話の向こうで聞いてくれる人なのだ。


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