(短編集)ベッドサイドストーリー・1
私の家から彼の家へ。その間には、ほどほどの大きさの都会を通り抜けることになる。大きな川も、それから繁華街も。
高速道路の上からは、その景色はまるで宝箱をひっくり返したかのように目にうつるのだ。墨汁をたらしたみたいな真っ黒の川を越えると、対岸には光溢れるビル群が見えてくる。空も明りを反射して白く鈍く光って、まるでパレードがあるかのように賑やかなのだ。
だから私は、彼の部屋へのこの道が好きだった。朝だって、昼だって夜だって。いつでも次から次へと景色がかわり、その変化は著しく眼を楽しませてくれるのだ。結構な距離があるから時間もお金もかかるけれど、私が彼の部屋へいくのが嫌だったことなどない。
それは、この道のおかげ。
だけど今は。
景色どころではなく、髪を振り乱して必死だ!
出会いが社会人サークルで、そこにはきちんとした格好で行っていた。彼が友達だったときにもちゃんと化粧はしていたし、恋人になってからはより一層外見には気をつけていたものだった。いつだってマスカラを塗りたくり、唇には色をのせて輝かせていたのだ。
今晩以外は。
今、晃一の部屋へ向かって愛車を飛ばす私はすっぴんで、髪の毛も整えてなかった。少しだけ開けた窓から夜風がビュンビュンと吹き込んできて、車内はまるで台風の中。
絶対「綺麗」ではない。それにもしかしたら、「素朴」というよりも「怖い」かもしれない。髪の毛が全部逆立ったすんごい状態で私はハンドルを握り締めている。
やまんばと言って大正解の外見で、私は車をかっとばしていた。
気持ちが焦っていつもの見事な夜景でさえも見たくなかった。
早く早く、行かなくちゃ。彼の元へ行かなくちゃ。
晃一が凹んでいるんだもの。いつもは私が助けて貰ってる、だから、今晩くらいは彼の役に立ちたい。