(短編集)ベッドサイドストーリー・1
明日も会社は勿論ある。それに、もうすぐ日付の変更線を越えるような時間で、今晩は彼に会ってもすぐにとって返さなきゃならない感じ。だけど時間が時間だから高速道路は空いていたし、私は自分がとった突発的な行動に驚いてハイテンションだったのだ。
途中からはもう自分の今の状態を忘れ、たまにひゃっほ~!などと奇声を上げながら他の車を抜かしきって、ただただハンドルを握り締めて彼の住む街へとぶっとんでいた。
街のキラキラ、さようなら。
私は今日あなたたちに見惚れている時間がないのよ。
彼に会いに走っていってるの。出来たら光速で飛びたいんだけどさすがにそれは無理だから、人間の、それも一般市民が出来る限り最速で行きたいの。
だって、私のパートナーが、苦しんでるみたいだもの───────────
何とか無事故で着けたことを、後になってから理解して震えがきたほどにはスピードを出していたらしい。
彼が驚いた表情で玄関のドアを開けて私を見たとき、最速レコードをぶっちぎっていたのだと判ったのだ。
「ハロー」
私は興奮して目を見開いたままで片手を上げた。
「来ちゃったよ、晃一が心配で」
彼はまだ嵌めたままだったらしい腕時計を何秒かじっと見詰めたあとに、もう一回だけ私を確かめるように見て、それから爆笑した。
玄関先で、お腹を抱えて。
本当にゲラゲラと笑って体を折っていた。