(短編集)ベッドサイドストーリー・1


 ツイてなかった、今日は。だからユウコの声を聞いて元気だそうって思って電話したけど、余計なことを言ってしまったって思ってたんだ。そう言いながら、彼が私の乱れまくった髪を手櫛でとかす。電話を切られてしまって、それからはかけ直しても応答がなくてさ。焦った。どこ行ったのかと思って。まさか、本当にここまで来るとはって。それにしても凄い速さだったよな~、って。

 柔らかい目で見下ろしながら、晃一の口元が大きな三日月を描いている。

「お陰で元気が出たよ。たくさん笑わせてもらったし」

「そう、それなら良かった」

 私はもう完全に開き直って大きく笑う。だって仕方ないじゃない?今さら格好もつかないし。

 彼が素敵で美味しいワインを淹れてくれたけど、私は残念な目でそれを見つめながら断ったのだ。

 だってまだ帰らなきゃならないし。嬉しいけど車だから飲めないよって。

 そうしたら、晃一が上機嫌って顔で見下ろしてきた。

「大丈夫」

「え?」

「今夜はここに泊まってって。それから、明日はちょっとだけ頑張って早起きしようぜ。送ってくよ」

 今度は、君の部屋まで、オレが。

 ──────────わお。

 私ははしゃぎたい気持ちをぐっとこらえて、仕方ないわよねってもう一度肩を竦めて見せた。

 何て素敵な申し出だろうか。今は、彼と同じ部屋。それから美味しいワインが一杯。これを二人で楽しく飲んで、一緒に狭いベッドで眠る。そうしたら────────・・・・


 私は朝、またあのワクワクする道を通って自分の部屋へ戻るのだ。

 彼と、一緒に。




・「run to you」終わり
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