(短編集)ベッドサイドストーリー・1
・潤いフェブラリー
・潤いフェブラリー
とても喉が渇いていた。
それは口の中に風が入っていって、サラサラと肺や食道から胃までも砂で埋めてしまいつつあるような感覚といえるだろうか。
あたしは社会人2年目の会社員で、毎日をそれなりに忙しく、でも去年よりはかなり力が抜けたような状態で毎日を過ごしているのだった。
上加味が苗字で名前が満という。読みはウエガミ・ミツルで、その男のような響きの名前はこれまでの人生では気に入っていたのだ。
だけど、ここ最近はずっとあたしは乾いている。
今が空気中の水分の少ない真冬だから、とか関係なく。
皮膚や瞳やとかそういう話じゃなくて、心の底から、体の芯から水分が不足しているようだった。
だから名前負けしてるのよね、そう一人の時間に呟きたくなるのだった。
何が満よ、ちっとも満ちてないじゃないの。だって今でもこんなに、こんなに喉が渇いているのだから。
物理的に潤えばいいのかと水を飲んだり、精神的なものよねやっぱりとアフターセブンを活動的に過ごしてみたり、それでもダメならと図書館にこもって自己啓発本を読んでみたりと自分なりに色々やってはみたのだ。だけど、相変わらずあたしの乾きは癒されないままで今晩も喉の皮が干からびて死にそうになっている。
近頃ではお守りのように持ち歩いているペットボトルの水をごくりと飲んで、あたしは目の前の映画に集中しようと努力した。