(短編集)ベッドサイドストーリー・1
何をどうすればこの渇きは癒されるのだろうって真剣に考え出したのはいつだったか。とにかく、あたしは今、知らない男と観たくもない映画を並んでみている。
・・・・・・ああ、バカみたいだ。ってかバカなのかな。
その時、隣の男がつんつんとあたしの膝を指でつついた。それから耳に口をよせて言う。
「出ようか?君、みてないでしょう」
ええ、お互いにね。そう心の中でいって、あたしは頷くかわりにパッと身支度を整えて椅子から離れる。最初から端っこに座っていたので他の客にはさほど迷惑にならずにするりと映画館を抜け出した。
吐く息が白く輝いて夜の中をのぼっていく。街は明りに溢れてキラキラしていたけれど、あたしの心はちっとも晴れなかった。もう、乾きすぎてぱりぱりと音がしそうなほど。
「ああ、前評判と違って、つまらない映画だったな~」
独り言のようにそういいながら、男はうーんと背伸びをする。それからあたしを振り返ってにこっと笑った。
「ごめんね、つき合わせて。でも申し訳ないけど、君ではダメだったようです。これで帰ることにしましょう」
「は?」
あたしは聞き返す。君ではダメだった、ってどういうこと?って。誘ったのはそっちで、退屈していたのはあたしの方でしょうが。流石にむっとして顎を上げる。すると彼は苦笑したままで言った。
「利用したのはお互い様でしょう?君だって、何か思惑があって見ず知らずの男についてきたんでしょ。俺は最近、毎日にうんざりしていてね。何か目新しいものを探していたけどそんなの簡単に見付からないし、困ってたんだよ。それで、じゃあ知らない人に声でもかけてちょっといつもとは違うことでもしてみようかって思ったんです」