(短編集)ベッドサイドストーリー・1
「・・・」
「それがたまたま君だっただけ。だから、普段は絶対に見ない恋愛映画も観た。・・・だけどやっぱりつまんなかったね」
なんだそれ。あたしは憮然としたけれど、あまりにも似たような状況に怒るに怒れなかったのだ。確かに、お互い様だよね、そう思ったし。別に失礼なことをされたわけでもないし、映画代だってあたしは出してない。ということは、損したのは彼の方だけ。
「つまらなかっただろうけど、とにかく付き合ってくれてありがとう。仕方ないから帰って酒でも飲んで寝るよ」
ふうん、あたしは小さくそう呟いた。声と一緒にでた息は、自分の体の影に入っていて白くは見えない。
男は行くと言ったわりには暫くそのままで動かないで、あたしをじっと見ている。
あたしは見送るつもりになっていたので、やっぱり同じ場所で彼を見上げたままだった。
「・・・帰らないんですか?」
先に声に出したのはあたし。相手は呆けたようにあたしを見下ろしていて、やっと瞬きをした。
「うーん・・・。そうしようと思ってたんだけど・・・。やっぱり気になるよね、君。何が目的で俺についてきてくれたの?」
・・・ナンだその問いは。あたしはちょっと困ってネオン輝くビル群を見上げる。もしかしてあたし、体や美味しいご飯が目的だったのにとか思ってる、と思われてるのだろうか。
いや、まあナンパだし、そういうこともなるかもと思っていたけれど、そんな機会は今までなかったから自分がどう反応するかも判らなかったのだ。ただついていってみようかな、って。危機感など感じようがないほどにあっさりとした誘いをされたからというのもある。