(短編集)ベッドサイドストーリー・1
ぐいっと体が引っ張られた感覚があってよろめいて何とか耐えて立ち、驚いて目を見開く。いきなり男が、あたしのマフラーを掴んで走りだしたのだ。
緩くまいていただけだったあたしのマフラーはあっさりと解けて男の手の中へ。彼はそれをもってだだーっと距離をあける。
「え?ええ!?ちょっと・・・!」
驚いたあたしがようやくそう叫ぶと、通行人に混じりながら男が笑って振り返った。
「これ、返して欲しけりゃおいで!自力で取り返してみな!」
「はああ!?」
何だろうと振り返る人々の中で、男はニコニコと笑いながら顔の横であたしのマフラーを振っている。ちょっとちょっと、あの男泥棒だったの!?
あたしは唖然としたけれど、すぐに駆け出したりはしなかった。
だって、財布が入った鞄じゃない。くれてやったところで特に不便だとか辛いとか悲しいとかはない。
マフラーなのだ。
マフラー・・・・。
きっと遠いところでふざける男をにらみつけた。
そのマフラーは、別に大切なものってわけじゃあない。身内の形見だとか誰か大事な人に貰ったプレゼントなんかじゃなくて、普通に通りすがりの店で自分で気に入ったから買ったものだ。別にあの男にくれてやってもいい。でもでもでもでもでも!
あたしのものを、盗られた!!
それに純粋に、腹が立ったのだ。カッときて、全身の血が沸き立ったように感じた。