傍にいて欲しいのは
純粋な想い
タクシーを降りて部屋に入った。疲れた。メイクだけ落としてもう休もう。
ベッドに入っても眠れない。何であんな事を言ってしまったんだろう。
会いたかったのに、会いたくて堪らなかったのに……。自分の気持ちに素直になれない。いつからだろう……。
ベッドの上に起き上がって考える。振り返ると枕の横に置いた携帯。電話して謝ろう。携帯を握りしめて、でも掛けられなくて……。そんなことを何度も繰り返して……。
結局ほとんど夜明け近くまで眠れずにいた。
明け方、浅い眠りの中で……。
真っ白な……。何? 靄? ……霧?
……誰なの? ぼんやり見えるシルエット……。
白いドレスを纏った柔らかい色のゆるいウェーブのロングヘアー。淡い薄紫色の光に照らされた後ろ姿しか見えない……。
俯いたままそっと振り向いたその顔は、とても穏やかな表情をしていた。優しい眼差しを向けるのは、その胸に抱いた赤ちゃん。子供をあやすようなしぐさをして、そして温かな美しい声が聞こえた。
「心配しないで。大切にするから。あの人の赤ちゃん……。どんなに望んでも授かることのなかった隆文さんの赤ちゃん……」
「えっ? 待って、待って……」
私は自分の声で目が覚めた。
今、見たのは夢なの? どういうこと?
あれは……。お会いしたことも一度もなかったけれど……。でも間違いない。隆文さんの奥さま。
奥さまは私を恨んでいたんじゃないの?
いつも私と会ってから、私を抱いてから……。奥さまの病院に、お見舞いに行っていたご主人を……。
私の香水の残り香に気付かない訳が無い。
愛する人の心を奪った私を許せると言うの?
あの赤ちゃんは私と隆文さんの赤ちゃん。なのに、あんなに愛おしそうに……。
本当に、あの人を心から愛していたんだ……。悲しいくらいに……。
私は負けたんだ。なぜかそう思った。ただ涙が零れた……。
亡くなってもなお、ご主人を愛せる純粋な想いには、勝てない。
隆文さんと別れよう……。その時モヤモヤしていた気持ちがはっきりと決まった。
出勤すると心配そうな黒沢課長。お昼休みにメールが来た。
『大丈夫なのか? 会いたい。いつもの場所で八時に待ってる』
仕事が終わって由美に食事に誘われたけど
「ごめん。今夜は用があるの」そう言って断った。
「分かった。じゃあ、また今度ね」
由美はいつも優しい。
約束の場所に八時に着いた。待っている車に乗り込むと
「顔色、良くないようだけど、本当に大丈夫なのか?」
心配そうな隆文さん。
「大丈夫だから。それより聞きたい事があるの」
目を見詰めて言った。
「どんなこと? 何が聴きたいんだ?」
「亡くなった奥さま……。髪は柔らかいブラウンでウェーブのかかったロングヘアー?」
「えっ、どうしてそれを君が……」
「やっぱり。そうなのね……。もしかしたら白いワンピースよく着てた?」
「一番好きだった白いワンピースを着せてあげたんだ。……でも何でそんな事、君が知っているんだ?」
「驚かないで聴いてね。……奥さま、今朝、私に会いに来てくれたの」
「どうした? 何を言い出すんだ。莉奈、大丈夫か?」
「本当なの。私に会いに来てくれた。でもすごく穏やかな顔だったの。とても優しい……」
隆文さんは信じられないという顔をしていた。
ベッドに入っても眠れない。何であんな事を言ってしまったんだろう。
会いたかったのに、会いたくて堪らなかったのに……。自分の気持ちに素直になれない。いつからだろう……。
ベッドの上に起き上がって考える。振り返ると枕の横に置いた携帯。電話して謝ろう。携帯を握りしめて、でも掛けられなくて……。そんなことを何度も繰り返して……。
結局ほとんど夜明け近くまで眠れずにいた。
明け方、浅い眠りの中で……。
真っ白な……。何? 靄? ……霧?
……誰なの? ぼんやり見えるシルエット……。
白いドレスを纏った柔らかい色のゆるいウェーブのロングヘアー。淡い薄紫色の光に照らされた後ろ姿しか見えない……。
俯いたままそっと振り向いたその顔は、とても穏やかな表情をしていた。優しい眼差しを向けるのは、その胸に抱いた赤ちゃん。子供をあやすようなしぐさをして、そして温かな美しい声が聞こえた。
「心配しないで。大切にするから。あの人の赤ちゃん……。どんなに望んでも授かることのなかった隆文さんの赤ちゃん……」
「えっ? 待って、待って……」
私は自分の声で目が覚めた。
今、見たのは夢なの? どういうこと?
あれは……。お会いしたことも一度もなかったけれど……。でも間違いない。隆文さんの奥さま。
奥さまは私を恨んでいたんじゃないの?
いつも私と会ってから、私を抱いてから……。奥さまの病院に、お見舞いに行っていたご主人を……。
私の香水の残り香に気付かない訳が無い。
愛する人の心を奪った私を許せると言うの?
あの赤ちゃんは私と隆文さんの赤ちゃん。なのに、あんなに愛おしそうに……。
本当に、あの人を心から愛していたんだ……。悲しいくらいに……。
私は負けたんだ。なぜかそう思った。ただ涙が零れた……。
亡くなってもなお、ご主人を愛せる純粋な想いには、勝てない。
隆文さんと別れよう……。その時モヤモヤしていた気持ちがはっきりと決まった。
出勤すると心配そうな黒沢課長。お昼休みにメールが来た。
『大丈夫なのか? 会いたい。いつもの場所で八時に待ってる』
仕事が終わって由美に食事に誘われたけど
「ごめん。今夜は用があるの」そう言って断った。
「分かった。じゃあ、また今度ね」
由美はいつも優しい。
約束の場所に八時に着いた。待っている車に乗り込むと
「顔色、良くないようだけど、本当に大丈夫なのか?」
心配そうな隆文さん。
「大丈夫だから。それより聞きたい事があるの」
目を見詰めて言った。
「どんなこと? 何が聴きたいんだ?」
「亡くなった奥さま……。髪は柔らかいブラウンでウェーブのかかったロングヘアー?」
「えっ、どうしてそれを君が……」
「やっぱり。そうなのね……。もしかしたら白いワンピースよく着てた?」
「一番好きだった白いワンピースを着せてあげたんだ。……でも何でそんな事、君が知っているんだ?」
「驚かないで聴いてね。……奥さま、今朝、私に会いに来てくれたの」
「どうした? 何を言い出すんだ。莉奈、大丈夫か?」
「本当なの。私に会いに来てくれた。でもすごく穏やかな顔だったの。とても優しい……」
隆文さんは信じられないという顔をしていた。