傍にいて欲しいのは
未来也さん
「ごゆっくりどうぞ。マスター、俺、ちょっと奥を片付けて来ます」

「おっ、すまんな未来也」

「みきやさんっていうんですか?」

「みらいなりって書いて未来也です。あいつ見た目は何処かのアイドルみたいですけど、逞しい奴なんですよ。大学二年の時に突然アフリカに行くって」

「えっ? アフリカですか?」

「そう。アフリカ。青年海外協力隊っていうんですか? 井戸を掘ったり学校を造ったり色々あるらしいんですが」

「へぇ、そうなんですか。意外ですね」

「でしょう? 二年間アフリカに居て人生観もかなり変ったって言ってましたよ」

「二年もですか?」

「えぇ。だから未来也は今、大学四年ですけど歳は二十四歳なんですよ」

「私と同じ歳なんですか? 大学生のバイトさんだとばかり思ってたから」

「あいつ童顔だから。たまに高校生に間違えられるらしいですよ。でも本当に良い奴です」

「はい。ずっと付いて居てくださって、とても、あったかい方だなって思いました」

「私が女だったら絶対惚れてますね」
 とマスターは愉快そうに笑っていた。

 奥から未来也さんが出て来て
「何か、楽しそうですね」
 と笑顔で言った。

「お前のこと誉めてたんだ。くしゃみしなかったか?」

「えっ? 俺のことですか?」

「ありがとうございました。すごく助かりました。傍に居てくださって」

「いや、そんな、当然の事をしただけですから……」

「未来也、お前のコーヒー。せっかくだから和菓子いただこう」

「あっ、美味そう。これ人気の和菓子店のですよね」

「二人とも甘党なんです。飲めないんですよ。お持たせですけど、あなたもどうぞ。コーヒーも冷めないうちに」

「はい。ありがとうございます」

 何だか、とってもあったかくて居心地が良かった。

「そうだ。コーヒーチケット、プレゼントしますよ」

「そんな、私、買いますから」

「いいえ。プレゼントさせてください。お見舞いと元気になったお祝いです」

「いいんでしょうか? 私がお世話になったのに甘えてしまっても……」

「マスターが、そう言っているんですから」
 未来也さんの笑顔。

「お名前、書いていただけますか?」

「あぁ、はい」
 サインペンで名前を書いて渡した。

「樋口莉奈さんですか。良い名前ですね」

「ありがとうございます」

「これであと十一回、莉奈さんに会えますね。いやぁ、いい歳して何言ってるんだか」

「本当ですよ。マスター」

 二人で笑ってる。

「しばらく休暇を取ったから毎日来ます。いいですか? 迷惑じゃないですか?」

「迷惑な訳ないでしょう。大歓迎ですよ」

 マスターと未来也さんの笑顔が温かくて一緒に居ると何故だか優しい気持ちで居られた。


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