school caste
カワノ先生の懸念通り、ホームルーム活動は大騒ぎになった。
委員長が前に出て司会をするわけではない。意見を出し合う必要もない。
チームを編成するのはお姫様と上級階層の運動部員たち。
それより下等な連中は近づくことも許されない。
上級以外は自由に好きなことをやって、携帯をいじるひとだっている。
アイ先生は一番後ろのパイプ椅子に座り、読書をしていた。
決めごとは勝手にどうぞ、というように。

頬杖をつきながら、私は人だかりのできたお姫様の席を見つめる。
相変わらず少人数の上級階層の人たちの笑い声が響き渡っている。
かなりうるさい。うるさくて仕方がないのに誰も止めることはない。
けたたましく、爆発的に笑う馬鹿共を軽蔑する思いはいつまでも変わらない。
どうせまた汚いこと考えてるんでしょ。
早くこの時間が終わればいいのに。

残り時間も10分になり、40分に渡るうるさい会議は終了した。
お姫様が前に立ち、書記のシバカワが汚ない丸文字で黒板に名前を書いている。

私の名前はお姫様とあまり面識のない子との集まりの中にあった。
比較的安心できるメンバーで、最近仲良くなり始めた子もいたのでひとまず安心する。
もう一チームは中級階層の中でも上の集まり。運動神経がまあまあいい人が何人かいるので、勝ちは期待できそうだ。

お姫様のチームは、案の定上級階層の中での仲のいい子同士。
クラスの中でも運動神経がずば抜けていい人がほとんどなので確実に勝てるチーム。
しかしその中にポツンと、いじめられっ子メグミの名前があることに気がついた。
私は驚いて、メグミの方を見る。
彼女は縮こまり、震えていた。
それを見て、上級階層たちの腐った魂胆が明白になる。

あいつら、あの子に恥をかけさせる気だ。

メグミは病弱であまり運動が得意ではない。
今回あのようにチームを組んだのは、それをいびり倒すためだ。
チームに大迷惑をかける姿をクラス全員に見せて、公開処刑する。
まぶたの裏でもはっきりと浮かんだ。
コートの中で、チームメイトに囲まれる彼女。ヤジを浴びせられる彼女。
学年中がこの子を使えない子だと嗤う瞬間。

弱い私は何も意見することができない。

ただ、帰り忘れ物をしたときに、教室にポツンと一人いたメグミに声をかけた。

「悪いことは言わない。球技大会、休もう。
お姫様の考え、分かるでしょ?」

メグミは微笑んだ。
額には絆創膏、口元にはアザの跡がある。
だが、普通に話しかけたことが嬉しかったのか、頬にはえくぼが浮かんでいた。

「ありがとう、タカナシさん。」

すっかり方言が抜け落ちた言葉。
それが誰にも聞かれないことが切なくてならない。

「でもね、怖くても参加だけはしないといけないよ。ずる休みしていじめが厳しくなったって、自業自得になるから。
きっと皆に迷惑をかけると思う。いっぱい失敗して、泣いたりすると思う。
でも、ずるい人にはなりたくないの。」

「ワケわかんない。逃げたっていいのに。」

眉間にシワを寄せると、メグミはフフっと笑い声をあげた。
あの下衆い連中とは違う、耳に心地よい綺麗な笑い声だ。

「気を遣ってくれてありがとうね。私は大丈夫だから。」

そして悲しい笑みを浮かべる。

「もう私に話しかけないでね。
お姫様たちに見られてあなたに飛び火が移ってしまったら、嫌だから。
ありがとう、気が楽になったよ。
じゃあね、お姫様たちに呼ばれてるから。」

何処までも悲しくて優しい彼女。
処刑されるのはお姫様の方だ。なのに愚民は逆らうことを知らない。
いつか、ツケが回ってくる。
恐らく私もバチが当たる時がくるだろう。
でも彼女の姿を目にして、もうそんなことはどうでもよくなった。
私は所詮その程度の人間だということだ。
怯えるだけ怯えて何も行動しない。
メグミに手を伸ばすことをしない。
偽善ですら表明しない。
でもこれだけは分かる。
お姫様と上級階層の人間たちは一人残らず首が跳ぶ。

因果応報。
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