きみの涙に、名前を。
動き出そうとした結衣は衝撃的な光景を見ることになる。
橋本が女の子と手をつないで歩いているのだ。しかも相手は浴衣を着た、七瀬。
わけがわからなかった。いや、わかりたくなかった。
結衣は二人の姿を見ていたくなくて、ただひたすら走った。そこからの記憶はない。気づいたら浴衣を脱いで、自分の部屋にいた。
(彼は二股していたのだろうか。あの心優しい彼が、そんなことをするはずがない。)
一番わかってて、一番信じなきゃいけない。でも自分の目で見たのだ、この目で。手をつないだ二人の姿を。
一晩中泣き続けた。翌朝、結衣は両親に自分も父と一緒にアメリカに行くことを告げた。やっぱり家族は一緒がいいと思うと添えて。二人は様子がおかしい娘を心配した。しかし結衣は大丈夫だと言い張った。彼女の瞳は芯のあるものだった。まるで何かから自立するような、そんな瞳。娘ももう高校生だ。子どもであって子どもでない、大人であって大人でない、そんな時期。自分たちには理解できない何かがあることに気づいていた。だから二人は承諾した。ただ一言、後悔しないようにと言葉を伝えた。
その夜、橋本に別れを告げた。話してる最中に泣いてしまうと思い、メールにした。返信はきていたが、内容は確認せずに削除した。