きみの涙に、名前を。
嫉妬だとわかりきった上で聞く愚問。しかし正気を保てていない橋本はその真意に気づいていない。
再び視線を下げた。
「……結衣が、結衣が好きだから。結衣が大切だから。結衣を愛してるから。他の男に取られたくないから。でも、結衣が他に好きな男がいるなら、俺はいつでも身を引くよ」
橋本の肩は少し震えている。
(ああ、彼は私の幸せを一番に考えてくれているのに、なんてことをしてしまったのだろう!)
結衣は橋本を抱きしめた。
「橋本くん、ごめんね。あれは同僚なの。高校のときの彼氏と婚約したって伝えてあったからこれからデートって言ったら冷やかされて……。私が好きなのは橋本くんだけだから」
「結衣、それ本当?」
橋本は結衣を抱きしめながらそう聞く。
「本当だよ。私だって、付き合ってたときからずっと、橋本くんの幸せを一番に願ってた」
「でもアイツのことは名前で呼んでたじゃんか……」
小声で言う橋本の嫉妬心はそこにあったのだと初めてわかった。いつまでも蓮と呼ばない結衣にじれったさを感じていたに違いない。
「蓮、好きだよ」
橋本は結衣をきつく抱きしめ、そっと身体を離した。
「やっと、やっと呼んでくれた」
ふわっと微笑み、橋本は結衣の唇に触れた。
そのキスには初めて気持ちが通じたときと同じくらいの初々しさが残っていた。