きみの涙に、名前を。
ある日、結衣はふと橋本の教室を覗くと女の子と二人で話していた。人気者の橋本だからそんなことは日常茶飯事で普段なら流すところなのに、なぜかそのとき結衣の胸がざわついた。
その日からその女の子、七瀬と話している姿をよく見かけた。秀才で美人な七瀬は誰から見ても橋本とお似合いで、もしかしたら橋本は彼女のことがずっと好きだったんじゃないかと思うようになるくらい、結衣は不安でいっぱいだった。
そして事件が起こる。
その日もいつものように帰っていた。
「あれ、蓮くんだ!」
突然うしろから声がかけられ、振り向くと七瀬が立っていた。
「蓮くんってこっちの道なんだね!いつもホームルーム終わるとすぐ教室出ちゃうから知らなかったよ!」
七瀬はそう言いながら結衣と橋本の間に入ってきた。まるで結衣のことなんて見えないかのように。
驚いて声も出せないでいると、橋本が
「七瀬、俺彼女と帰ってるんだ。邪魔しないでくれないか」
と言ってくれた。
しかし彼女はこちらを一瞥すると、何事もなかったかのように橋本に話しかけた。
何度橋本が言っても聞かず、結局結衣が先に帰る、と言い橋本とは別れた。
結衣は、きっと彼女は橋本のことが好きなんだろうと思った。女の勘、ってやつだ。