有害なる独身貴族
確かに数家さんは格好いい。
凄く整った顔というわけではないけど、清潔感があって、気配り上手で、いい人だ。
それだけだったはずなのに、店長のせいでおかしくなる。
「つぐみ、告っちゃえばいいのに」
二人きりの時にからかうように言った店長を睨みつける。
恥ずかしいやら悔しいやらで、心臓がドキドキして止まらなくなった。
これが恋なんだろうか、と思い出したらそんな気がしてくる。
だけど結局、それから半年以上、私は告白などしなかった。
彼が「恋愛はしばらくいいです」と店長と冗談のように話しているのを聞いてしまったから、というのもあるし、私自身が、誰かと付き合うなんてことを想像も出来なかったからだ。
家族とか家庭とか、そういうものは信じられない。
だから彼が素敵だと思う反面、どうこうなりたいとまでは思えなかった。
でも、それを放っておいてくれないのが、恋愛脳の持ち主である店長だ。
「今日は飲みたい気分なんだよねぇ」とわざわざ定休日に私と彼を誘って飲みに連れだす。
そして、一時間もしないうちに自分の彼女を呼び出して帰ってしまうことが続いた。
頼んでもいないのにされるわざとらしい協力が、恥ずかしくて嫌だった。