有害なる独身貴族
ものすごい光景……だけど、完全にごまかされた。
北浜さんと片倉さんの関係は?
どうして過去を隠そうとするの?
聞いてはいけない、何かがあるの?
「げほっ、うー、一気に飲ませることないじゃないですか」
「うるせぇな。もう行っていいよ、光流。つぐみもいるからお前いらない」
「相変わらず勝手だなぁ。はいはい。じゃあ悪いけどお先に」
これ以上突っ込むと何をされるかわからないとでも思っているのか、数家さんはすぐに引き下がった。
床にこぼれたワインを拭きながら、「あー、頭動かすと回るなー」とかつぶやいている。
「房野、また明日な」
雑巾を絞ったところで私の肩を叩いていった。
「はい、お疲れ様です」
そのまま数家さんが厨房から出ていって、店長と二人きりになる。
さっきの続きを聞きたいけれど、余計なこと聞いたら私も追い出されるのかしら。
何を言えばいいのか、一度考えだしてしまうと、普段何も考えずにしていた時の話題が思いつかない。
そのうちに着替えた数家さんは出て行ってしまって、本当の二人きり。
洗い物も終わってしまったらどうしていいのか分からず、途方にくれる。
店長は調理台を拭きながら、独り言みたいな音量で言った。
「なぁ、つぐみ」
「はい?」
「お前、この仕事楽しいか?」
「え?」
いきなり……何をきくのですか。