有害なる独身貴族

答えられずに黙っていると、「ワリィ、変なこと聞いた」と店長は発言を撤回した。


「……変なことじゃないです」


遠ざかられるのが嫌で、続ける。


「楽しいです。ご飯食べるの大好きだし、店長の料理は美味しいし、何より、ここでは皆優しくて、私を育てようとしてくれて幸せです」


そして何より、貴方がいる。

ここがあるから、生きていける。


「幸せ……か」


自嘲するように目を伏せる片倉さん。

今日の北浜さんとの最後のやり取りの間も、あんな顔をしていた。


『おまえももう癒やされたんじゃないか』


北浜さんはそう言っていた。
何かあって、店長がこの仕事を始めたのは確かなんだろうけど、それがなんなのかは私には分からない。


でも今の私にとって、重要なのは多分そこじゃない。
重要なのは……


「あの、……店長は今、幸せですか?」


勇気を出して聞いたつもりだった。

だけど、返事はもらえなかった。
彼は滴の伝った手を軽く振ると、まるでごまかすように、さっきまでとは違う明るい調子の声をだす。


「今日はもういいぞ、お疲れさん」


答えにならない返答に、突き放されたような気分になった。

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