有害なる独身貴族



それから数日後、鏡の中では、店長に買ってもらった薄緑のシャツワンピを着た私が、眉を八の字にしている。


「やっぱり変かなぁ。おかしくないかなぁ」


普段着ないような色合いに、どうしても違和感は拭えない。

だけど、似合わないかと言われればそうでもない。
襟があるから、ショートヘアの自分でも首周りが華やかになるし、合わせてもらったベルトをつけると、目線が胸下に行くからか足も長く見える。

見慣れない姿ではあるけれど、いつもの自分よりは可愛いかな、なんて自惚れられるくらい。

それにこれは、片倉さんがくれたものだ。それを身に着けているだけで、幸せな気分になる。



『幸せですか』の問いかけに、片倉さんは答えてくれなかった。
きっと彼は、幸せじゃないんだ。

だとしたら、どうすれば幸せになってくれるの?
いつも私を幸せにしてくれるあなたが、幸せじゃないのはちょっと寂しい。


そんなことを考えたり、茜さんとの話を思い返していたら、ふとこのワンピのことを思い出したのだ。

せっかく買ってくれたのに、一度も見せないなんてやっぱり失礼だ。
着て見せたら、少しは喜んでくれるかもしれない。

私はきっと、彼を幸せには出来ないけれど、ほんの少しなら、こんな小さなことならできる。

これを着て行って、もし片倉さんが喜んでくれたら、それだけでも嬉しい。


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