有害なる独身貴族
「お、おはようございます」
「つぐみ、……おはよう」
しばしの沈黙。
顔に血が上ってくる。
「あの、私、着替えてきます」
どう思われたのかを確認する勇気もなく、脇を通って逃げようとしたら腕を掴まれた。
「ひゃっ、な、なんですか」
「あ、ワリィ」
悪いって言いつつ、手を離してはくれない。
助けを求めて顔を上げると、予想に反して店長は笑っていた。
「予想より似合っててビビった」
顔が熱い。
足が地についてんのか分からないくらい頭の中、ふわふわする。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言って、腕をじっと見てたら、掴んでることを思い出したように店長が「ああ」と言って手を離してくれた。
私は軽く頭を下げて、逃げるように事務所に入る。
鍵をかけ、扉を背にして、バクバク跳ねる心臓に手を当てる。
「は、反則」
ビビったって。
似合ってビビったって。
……なんだかすんごく褒められた気がする。
片倉さんを喜ばせたかったはずなのに、私ばっかりこんなにうれしくなってどうするの。
*