有害なる独身貴族
そんな彼が変わったのは、今年の四月。
うちの店では新作料理を出す前にモニターさんに食べてもらう。
その一人である刈谷さん。
いつも男ウケしそうな格好をしていて、気が強そうで、お化粧が濃い。
まるで店長が連れ歩いていそうな、軽そうな女の人。
優しくて穏やかな数家さんが、彼女の前でだけは作為的な面を見せ、楽しそうに笑う。
私が驚くくらいに、気の抜けた表情も見せていた。
あんな人が好みなんだ。
前の人の印象で、勝手に彼はしっかりした仕事のできる感じの女の子が好きなんだろうと思っていた私は、無性にイライラした。
これがヤキモチなのかと思うほどに。
そんな頃、もう一人のモニターさんだった徳田さんとの間にトラブルが起こって、店長と刈谷さんが鉢合わせする場面があった。
その後二人になった時に、店長は真面目な顔で私にささやく。
「……これは、凄い子がでてきたな。つぐみ、ヤバイかもよ。早々に告っとけよ」
「別に、私はそんなんじゃ」
「告白ってな、ちゃんとしておかないと引きずるもんなんだよ。いいから頑張れ」
告白するつもりなんてなかったのに。
店長の言葉に突き動かされるように、私は数家さんに告白してしまった。
「好きです。……多分、好きなんです」
自分でも戸惑いながらの告白に、数家さんは驚きつつ苦笑して言った。
「房野が気づいていないだけで、君は俺に恋はしてないよ」
じゃあ、恋ってどんなものなの。
一緒にいて嬉しいとか、格好良くて素敵だなぁとかそんなふうに思う気持ちは恋じゃないの。
二十三年間生きてて、彼氏がいたことは一度もない。
誰かを好きだという気持ちも正直言えばよく分からない。
誰でもできるはずの恋愛が、私にはとても難しい。