有害なる独身貴族


ピークの時間が過ぎ、それぞれが交代で賄いをとるよう指示された。


「房野さん、一緒に休憩入りません?」


その時厨房に戻っていた上田くんが、皿を下げてきた私を手招きする。
流しに置くのと同時に、店長の舌打ちが聞こえてきた。


「接客が同時に休憩入るなよ、上田が先に済ませろ」


忙しそうに厨房内を歩き回りながら言う店長。
上田くんは唇を尖らせて、「ちぇー」と小さく呟いた。


「上田くん、お先にどうぞ」

「すんません、じゃあお先に」


湯気の上がっているお碗を受け取り、事務所の方へ向かう上田くん。
その背中に、再び舌打ちするのは店長。


「大人げないですよ」


鍋を抱えてきた数家さんがそう言い、流しに下ろす。


「房野、今二テーブル一気に空いたから下げてきて」

「はい」


話している場合じゃなかったみたい。
私は慌てて、店内の方に出る。

もうお客は落ち着いてきていて、空いている席も結構ある。

レジを打っていた高間さんが、空いたばかりの席を指さして教えてくれた。

奥の方のテーブルから、順々に下げよう。

お盆にお皿をできるだけ沢山重ねて運ぶ。そのうちにもお客様がお帰りになるので、「ありがとうございました」と声をかけるのも忘れずに。

入ってくる客より出て行く客のほうが多い時間になってきたから、高間さんはレジから動けなくなる。

数家さんもお客様に呼ばれたところなので、片付けているのは私だけ。
お客様が待っているわけではないからいいのだけど、テーブル清掃が遅れてしまっている。

厨房との間を何往復もしたあと、あと少しだったから、いつもより多めに皿を重ねた。

持ち上げてみればずっしりとした重量感。
ちょっと無理か?
でも、二回に分けるほど多いって訳でもないし。


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