有害なる独身貴族
「それは……怒りますね」
数家さんの声のトーンも低い。
当たり前だよ、二人は付き合い始めたばかりだし、今一番幸せな時だろうに。
「でもお前以外に思いつかないんだよなぁ。任せられるような奴」
それは、誰のことを。
無意識に期待している自分に気づく。
「房野のことでしょ?」
数家さんがあっさりと聞く。
それに対する明確な返事はなかったけれど、彼が話を続けたところを見ると、頷くか何かしたのだろう。
「あなたは結婚相談所の職員じゃないでしょう。頼まれてもいないのに、人の世話やく必要無いじゃないですか。それとも、そこまでして構いたい理由があるんですか?」
「そりゃお前。大事な従業員だからな。幸せになって欲しいだろう」
「人の世話焼くまえに自分でしょう。それに、もう辞めた金沢さんの時はそんなことしてなかったでしょう。彼女のほうが二十九歳で、切実な歳でしたよ。明らかに房野に対しては特別扱いです」
「……つぐみは、放っておくと何でも我慢するからだよ」
「それって放っておけないってことでしょ。店長、房野のことが好きなんじゃないんですか」
体中から汗が噴き出してきた。
ちょっと、数家さん、なんてこと聞くの。
どうしよう、嫌な答え聞いたら立ち直れない。
私は手で耳を塞ぐ。