有害なる独身貴族
「お前、俺をいくつだと思ってんの。四十だよ? つぐみの親みたいな歳だよ? それを……」
「房野の合意があれば問題無いんじゃないですか?」
耳を抑えていた手を緩めて、思わず聞いてしまう。
数家さんのあっさりした返答に、心臓は大暴れしはじめる。
そ、そうなの?
この歳の差って問題ないの?
だったら私は。
傷つかないために、無くさないために俯いて言い聞かせてきた気持ちが、うねりながら、期待とともに上昇気流に乗る。
しかしそれは、店長の返答によって、一気に谷底まで落とされた。
「……問題ある。俺じゃ誰も幸せには出来ない。つぐみには、幸せになって貰いたいんだよ」
壁にぶつかって、落下した気分。
頑なな彼の言葉に、私を受け入れる余地はない。
でも……どうして?
傷つきながらも、疑問が消えない。
私を幸せにしてくれたのは、ずっと貴方だったのに。
どうしてあなたは自分には出来ないなんて言うの。
胸の奥に、一番大切にしていたものをえぐられたようだ。
感情を保っていた線がぷつりと切れた音が聞こえた気がした。
余計なことしたら、ここでの居場所まで無くなっちゃう。
そう思うのに、私は我慢しきれず、立ち上がって厨房に飛び出してしまった。