有害なる独身貴族
ついた先はアパートだった。大通りからは少し離れているのか、音は聞こえてくるけど一帯は暗い。
はっきりとは見えないけど、一階部分には囲いが広くとってあり、庭もありそう。エントランスも小綺麗で、オシャレな感じのする建物だ。
数家さんは迷いもなく三階まで上ると、一室の前で電話をかけた。
すぐに開けられる扉。
出てきた姿を見て目をみはる。
夜中だから当然といえばそうなんだけど、刈谷さんがお化粧をしていない。
目鼻立ちがくっきりしているから、相変わらず綺麗な印象はあるんだけど、いつもの攻撃的な綺麗さじゃなくて、なんだか優しい感じ。
「あら。ほんとに連れてきた」
「悪いね」
「ホントよ」
会話を聞いているといたたまれない。
そうだよね。
彼氏が夜中に女の子を保護して帰ってくるんだから、刈谷さんにとっては面白いわけが無いよね。
「すみません、やっぱりかえ……」
踵を返そうとした私を刈谷さんの手が掴んだ。
「バカね。ここまで来て遠慮するもんじゃないわよ。入って」
「……あれでも歓迎してるから。気にしなくていいよ」
数家さんに背中を押されて、私はおずおずと中に入る。