有害なる独身貴族
刈谷さんは私をユニットバスに誘い、足をシャワーで流してくれた。その後、リビングに戻って消毒してから絆創膏をはる。こんな風に甲斐甲斐しくお世話をされることはあまりないので、なんだか不思議な気持ちだ。
「……刈谷さん、すみません。こんな時間に」
「いいわよ。一人暮らしだし。明日土曜でしょ。あなた達は仕事だろうけど私は休みだし? 光流がこんな頼みするのもよっぽどのことだもの」
「さて。じゃあ話してもらおうかな」
湯気のたったカップを3つテーブルに置き、数家さんが刈谷さんの隣に腰を下ろす。
期待に満ちた眼差しを向けられ、観念する。
ここまでしてもらって、言えませんとは言えない。
私は、ぽつりぽつりと話しだした。
家庭環境のこと、十歳の時の自殺未遂、そのとき居合わせた役所の人らしき男の人の話。
それから、祖父母に引き取られたこと、一人暮らしを始めて、雑誌の記事で店長を見つけてから勤めるようになるまでの経緯。
思い出すと辛いことばかりだけど、泣かずに話せたのは、聞いていてくれる二人が急かしたりせず、優しい眼差しを向けてくれているからかも知れない。
昔は話せなかった過去を、言葉にできるようになってきたのも、私が癒やされてきた証拠なのかも。
「ずっと、店長があの人だって信じてたから。……お兄さんだって聞いて驚いちゃって」
一気に話して、マグカップを傾ける。
温かいお茶は、すべて語った私を労るように優しい味だ。