有害なる独身貴族


「それなんだけどさ。……俺、店長に兄貴が居るなんて話、一度も聞いたこと無いんだよね」

「え?」

「まあ、黙っていただけってことも有り得るけど、……なんか怪しいよなぁ」


数家さんは顎に手を当てながら、ポツリと呟く。
それを受けて、あっさりと答えるのは刈谷さん。


「確かめて見りゃいいんじゃないの。北浜さんなら知ってそうじゃない。聞いてみれば?」

「でも北浜さんの連絡先って、店長しか知らないんだよな」

「なんで聞いてないのよ、常連客の上にモニターじゃない」

「店長、北浜さんに関しては自分でやるって言うし、連絡さえつけば問題なかったからさ」


二人の間で話が進んでいく。
刈谷さんは一度うーんと唸ると、名案を思いついたかのように指を鳴らした。


「分かった! つぐみちゃんの昔住んでた地域の役所に電話してみればいいのよ。北浜って人がいるかどうか」


私と数家さんは、思わず顔を見合わせる。


「だって、昔店長さんが役所の職員だったとすれば、昔の上司だった北浜さんもそうでしょ? 北浜さん、別に定年って歳でもなさそうだし、異動してないかぎりは見つけられるんじゃないかしら」

「ああ……そうですね」

「史、冴えてるな」

「ふふん、まあね」


そうか。
問い合わせするって手があったんだ。
それさえも思いつかないなんて、私は馬鹿かも知れない。


「まあそれはそれで、週明けにやればいいと思うけど。でも私はね、それよりもっと重要な事があると思うのよね」

「なんですか?」

「あなたの気持ちよ」


刈谷さんがカップを傾けて喉を潤した後、試すような口調で続ける。

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