有害なる独身貴族

「私、最初、つぐみちゃんって光流が好きなんだと思ってたの。それは合ってる?」


ギクリとすることを言われて、助けを求めて数家さんを見る。


「店長がわざとらしいほど俺たちをくっつけようとしてたからな」

「私、……数家さんのこと尊敬してます。だから好きなんだと思ってた。でも、今思えば、店長が勧める人だからだったかも知れないって思います」

「まあでも、あの勧めっぷりは引くレベルだよ。房野は洗脳されてたんだろうけど、俺は逆に房野を一歩置いて見るようになった」


なるほど。
だからいつも数家さんは紳士的だったんだな。

あの頃の自分の態度を思い出すとなんだか恥ずかしいけど、告白の前後で数家さんの態度が変わらなったのは、
冷静に状況判断していてくれたからなのかも。

刈谷さんは僅かに頬を緩ませて続ける。


「で、今は店長さんが好きなんでしょ? それって、昔助けてくれた人だからなの? それとも、そうじゃなかったら嫌いになるの?」

「それは……」


もちろん、彼だと思ったから、今の店長に近づいた。
店長があの時の“彼”であることは、私にとってはすべての前提条件だった。

でも……。

おじいちゃんと別れた日、『待ってるよ』と言って私を救ってくれたのは店長だ。

あのワンピースを選んでくれたのも、
倒れた日、雑炊を作ってきてくれたのも、
幸せになれと言い続けてくれたのも、
全部全部、今の片倉さん。

その一つ一つに、私は心を揺さぶられてきた。

今の片倉さんを想うだけで、胸が温かくなり、気恥ずかしくなる。

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