有害なる独身貴族
片倉さんがあの時の“彼”じゃなかったら、嫌いになる?
目を閉じて、思い描く彼の輪郭。
今もドキドキするし、会いたいと感じる。
「今の片倉さんが、……好きなんだと思います」
刈谷さんは、ゆっくりと目を細めて笑う。
優しげで、目を奪われるほど綺麗な顔だった。
「だったら、昔会った人かどうか確かめるなんて、本当は重要じゃないかもしれないわ。そうよね、光流」
「……だな」
「です、ね」
膝にのせた手を、キュッと握る。
ホントだ。
単純に紐解いてみれば、今の私に残ってるのってそれだけなんだ。
店長が……片倉さんが好き。
歳が親子ほど離れていても、恋愛相手としてみてもらえなくても、それでもいいから傍にいたいほど好きなだけ。
ふと気が付くと、刈谷さんが楽しそうに私の顔を覗き込んでいる。
「それにしても店長さんのこと話してる時のつぐみちゃんって顔違うわね」
「えっ」
綺麗な顔で何を仰るのですか。
「だろ。分かりやすいよね」
アワアワする私に笑いかけながら、数家さんは続ける。
「店長も分かりやすいんだけど。……あの人は馬鹿なのかも知れないよね」
「馬鹿って」
馬場さんも言ってたけど、皆、容赦無いなあ。
「だってさ。店長、房野にすごく甘いだろ? あれで自覚ないとかどうかしてるよ」