有害なる独身貴族

厨房を通り抜けると、数家さんが私を手招きする。


「房野。打ち合わせしよう。上田もこっち集まって」


待たせてしまったから怒っているかと思ったらそうでもなかった。

店長が上手く言っておいてくれたのかな。
テーブルを拭いていた、バイトの上田くんも寄ってくる。


うちの店は、ランチタイムと夜に開店する。

ランチタイムは11時半から14時まででメニューは一択。

主にビジネスマンをターゲットにしており、回転も早いので忙しいけれど、メニューが複雑じゃないから店員数はそれほど必要じゃない。

正社員である数家さんと私と高間さんが交代で入り、混みだす冬場はプラスで主婦のパートさんが入る。


比べて夜は忙しい。
沢山の鍋メニューに加えて、副菜、デザート、お酒の種類だって沢山ある。


「今日のフロア担当は、俺、房野、上田の三人です。水上さんが急に体調崩したらしくて休み。ちょっと人数的にキツイけど、予約客は二組で、時間もずれているので頑張ろう」

「はい」

「担当区域は上田が小上がりと厨房に近いこの一角。房野は入口から中央までのテーブル席。残りは俺。担当を中心に見つつ、全体を見ることも忘れないように」


この店の接客が上手く回っているのは、こうやっておおまかに担当区域を決められるからだと思う。
料理を運んだりし終えた後は、基本担当区域を重点的に確認すればいい。

全員で全体を見るよりも確実に抜けが少ないと思う。


「じゃあ、本日のオススメメニューの確認をします」


一般へのおすすめメニューの確認、予約の人数、予約席のメニューの確認、時間、席の確認。

それが終わると「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」の発声練習。
おしぼり、箸、箸置きの確認、店内の掃除。


一連の作業を行っていると、厨房から店長の声がした。


「光流。ちょっと相談」

「はい。上田、何かあれば房野に聞いて。房野、頼むな」


自分が持ち場を離れるときは必ず責任者を決めていく。


……こういうところが数家さんは凄いと思う。
一言かけられるだけで、私も責任を感じるし、上田くんも動きやすくなるだろう。

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