有害なる独身貴族
確かに、普通に仕事してきたつもりだし。
家庭環境だって教えたわけじゃないから、過剰に心配される所以は分からない。
「その服だって、店長が買ったんだろ?」
薄緑のワンピースを指さされ、なんで知っているのか尋ねると、「カマかけて聞き出したから」とあっさり言われてしまう。
「あら、そうなの。店長さん趣味いいのね。さっきっから可愛いワンピだなって思っていたのよ。似合うわよ」
「ホントですか?」
「小物合わせもいいわね。つぐみちゃん、野暮ったく見えるけどセンスいいのね」
「これひとまとめ買っくれたんです。もっと言えば店員さんが選んでくれたらしいです」
だから完璧コーディネートなんだよね。
「え……。あ、そう。……なんか、店長さん、パトロンみたい」
呆れた顔をする刈谷さんに、数家さんが「全くだ」と頷く。
確かにそうなんだけど、ひどい言われようだなぁ。
「とにかく、保護者みたいに大事にしたいとか思ってるんだったら、房野に失礼だよ。言ってやればいいんだ。子供じゃないって」
数家さんは、私の頭にポンと手をおいた。
「数家さん」
「そうでしょ? 叱ってやってよ、房野。俺としてはさ、房野に店長を変えて欲しいんだよ」
「変えるって?」
「もう四十だよ。他人ばっかじゃなくて自分のこと考えて欲しいって話。俺、なんだかんだ言って、あの人のこと尊敬してるからさ。幸せになって欲しいんだ」
最後の言葉には優しさがこもっていて、私は自信がないながらも頷いた。