有害なる独身貴族
「……はい」
それを見ていた刈谷さんが、ため息をつきつつつぶやく。
「そうね。店のことも大事だけど、プライベートだって大事よね。少しつぐみちゃんに夢中になって、光流を開放してほしいもんだわ」
なんかすごく実感がこもっていて可笑しい。
数家さん、どれだけ振り回されているんだろう。
「さて。だとすれば、つぐみちゃんも女を磨かないとね。大人の男を相手にするんだから、もっと見栄えするメイクしないと」
テーブルに両手をついて立ち上がり、メイクボックスをいじりだす刈谷さんが私を手招きする。
「えっ」
「教えてあげるわ。いらっしゃい」
助けを求めて数家さんを見つめると、両手を上げて降参のポーズをとられた。
「史、ほどほどになー」
「どうせ私は化粧するとケバくなるわよ」
「そんなこと言ってないだろ。ただ、房野には史のメイクは似合わないかなと」
「わかってるわよ。ナチュラルメイクだって出来るわよ、失礼ね」
まずは顔を洗いなさい、と言われ、素直に洗う。
それから後はされるがまま、椅子に座って、私の顔をいじる刈谷さんの手をただただ受け入れていた。
「店長さん四十歳だっけ。つぐみちゃんが二十三? 十七歳差かぁ。なんか禁断の匂いがするわね」
「はあ」
「あ、返事しなくていい。ラインが曲がる」
ノリノリになった刈谷さんは私の顔にファンデーションを塗った後、目元をいじってくれている。