有害なる独身貴族
「こっちが子供だと思って見くびっているんだとしたら、大人っぽくして驚かせてやればいいのよ。ねぇ、光流」
「はいはい、そうだね」
私の代わりに、相槌を打ってくれている数家さんは、スマホでいじっている。
その後すぐに電話が鳴り、「ちょっとごめん」といいながら、ベランダに出て行ってしまった。
こんな夜中に一体誰からかかってきたのだろう。
次に数家さんが戻ってくるまでの間に、私はすっかり刈谷さんに変身させられていた。
「はい、出来た」
普段はしないアイラインを引き、まつげを上向きに上げられた。
それだけでぼやっとしていた顔が引き締まってみえる。
「お、カワイイじゃん」
数家さんにも褒められて、私は瞬きを繰り返した。
鏡の中にいるいつもより少し大人びた自分が本物か確かめるように頬を触る。
「お化粧って凄いんですねぇ」
「もっとしっかりメイクがいいなら髪も染めたほうが良いわ。今は髪が地味だからこんなもんよ。顔だけ浮いても変だもの」
「いえ、これで十分です」
「やり方覚えなさいね。これ、お古で良ければあげるから」
ブラウンのアイライナーとベージュ系のアイシャドウ。マスカラ。オレンジがかったチークがバラバラと目の前に並べられる。