有害なる独身貴族
額に濡れタオルを当てると、眉間によっていたシワが緩んだ。
やっぱり熱くてしんどかったんじゃないか、とか思ってしまう。
それからしばらく、荒い息を吐き続ける彼の傍にいた。
片倉さんは、浅い睡眠を繰り返しているようで、時々体を震わせて目を開けては、また落ちるように体の力を抜く。タオルはすぐに熱くなってしまうので、替えのタオルを冷凍庫に入れ、こまめに交換することにした。
やがて、彼が不意にかすれた声を出す。
「……つぐみ」
「はい?」
「ついてしまった嘘も消せるかな」
「え?」
タオルを目深にかけ、天井を見上げたままだ。
じっと見ていても、こっちを見てくれる気配はない。
はやる心臓を抑えながら、声だけは落ち着かせて言った。
「……気にならないくらいには、消せますよ。きっと」
「そうか」
はあと、熱をはらむ息を出し、彼は首だけをこちらに向けた。
寂しそうな瞳で見つめられ、私の体に緊張が走る。
「……嘘ついた。ごめんな。兄貴なんていない。……あれは、俺だよ」
良かったと思うのと同時に、体中から力が抜けていきそうになる。
泣いたらダメだと唇を噛んで我慢していると、片倉さんの言葉が続く。
「でも俺はつぐみを救ったわけじゃない。ただ見てただけで」
「片倉さん?」
「俺は……」
急に力が抜けたように、彼は目を閉じた。
その後何度呼びかけても、真っ当な返事はこない。