有害なる独身貴族


「熱っ」


額を触れば、熱が上がっていた。
今の会話も、朦朧としたまま話していたのかも知れない。


「タオルだけじゃ駄目だ。えっと」


この間買ってもらった冷えピタの残りを探しだす。
額のタオルを替え、冷えピタを脇の下に張る。

途中何度か目を開けた片倉さんは、私が居るのを確認すると安心したように目を閉じていく。

つられて眠りそうになったので、シャワーを浴びることにした。
せっかくのお化粧を落とすのはもったいなかったけれど、普段化粧慣れしていない肌は限界を迎えている。
やり方を反芻しつつ洗い落とし、部屋着に着替えてから、今度はワンピースについたシミを丁寧に落とした。
染み抜きの仕方は、昔おばあちゃんに教えてもらった。


“ある程度取れたら、下にタオルを敷いてトントンと叩きながら落とすんだよ”

シワの寄った手が布地を動かすと、魔法でもかかったように綺麗になったことを覚えている。


大丈夫、綺麗になる。
ちょっと汚れたくらいで、ダメになんてならない。

悲しい訳じゃないのに、涙がこみ上げてきた。

おばあちゃんが、今も私を助けてくれる。
私の中で、こんなふうに私を支えて続けてくれる。
おばあちゃんがいなくなっても、想い出まで消えるわけじゃない。

片倉さんもおんなじだ。
なくそうと思ったって、無くなるわけじゃない。
たとえこの恋が上手くいかなかったとしても、私は私の中の“片倉さん”を失うことはきっとない。
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