有害なる独身貴族

怖がることなんてないじゃない。
私は、自分の感情に正直に生きるべきなんだ。


洗い上がったワンピースを干し、再び彼の傍に座る。
ウトウトしては、額のタオルを替えるということを繰り返して、そのまま夜はあけていった。
ほとんど眠れていないけど、気分は軽かった。

どうして片倉さんが嘘をついたのかは分からないけど、追求するのも後で良いや。
今私の傍にいてくれる。それだけでこんなに嬉しいんだもん。


「……片倉さんが、好きです」


小さな声で、寝ている彼に告げる。
薄目が開いて、私を捉えた。

聞かれたかと焦って、生唾を飲み込む。

見つめ合っていた期間はほんの数秒で、彼は何も言わず、そのまま目を細めて再び眠りに落ちる。

だ、大丈夫? 聞かれてない?
恥ずかしくなって顔を抑えて、激しくなる動悸を押さえつける。

その後胸に湧き上がってくるのは、ほんのりと温かい感情だった。

声に出したら、こんなに幸せな心地がするものだったんだ。

好きですって。
そう言いたかったんだ、私。

従業員でいい、なんて嘘だ。
こんな風に隣にいてくれることを、本当はずっと望んでいたんだ。


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