有害なる独身貴族
片倉さんはビー玉を転がすように目を一回転させてから、いきなり我に返ったように矢継ぎ早に質問する。
それはいつもの心配症の片倉さんそのもので、調子が戻ったことに安心しつつも、ちょっと残念な気持ちになったことも否めない。
昨日の告白は、きっと聞こえてなかったんだろうな。
ならばと私もいつもの調子で話す。
「電話なんて鳴ってませんよ」
「鳴らしたって、十回位」
「えーでも」
かばんの中を探してみれば、画面が真っ暗になった状態のスマホが出てきた。
「……電池キレてたみたいです」
昨日、上田くんをやり過ごす間、結構触っていたからなぁ。
仕事行くのにこれではまずい。慌てて、充電器に差し込んだ。
「なんだよ、心配させんなよな」
大きな溜息とともに漏らされる言葉。
恨みがましそうな眼差しをされても。
そもそも泣いて出ていくはめになったのは片倉さんのせいじゃないかー。
「熱、測ってください」
時計を見ると、もう九時だ。
今日昼番だったっけ。だとしたら準備をしないと。
片倉さんは自分で脇から冷却シートを剥がし、体温計を収める。
そして立てた膝に肘をのせて、私の少し後ろに視点をあてた。
「……昨日、どこにいたんだ?」
「え?」
「店を飛び出してから、どこにいた? ……探しまわったのに」
汗で湿っていたシャツ。
疲れきったようにドアの前に座り込んで寝ていた彼を思い出して、胸がぐっと詰まってくる。