有害なる独身貴族
「数家さんが連れて行ってくれて。……その、刈谷さんのところに」
「はぁ?」
おずおずと伝えると、不愉快そうに声を荒げた。
「あいつ! 俺には見つからなかったって言ったくせに」
「あいつって……数家さん? え? でも数家さんもずっと一緒にいましたよ」
「あいつが追いかけても捕まらなかったってメール寄越したから、探してたんだ。その後何度か電話したけど、つぐみと一緒だなんて一言も言ってなかったぞ」
そういえば、昨日何度か数家さん電話してたな。
あれ、片倉さんとだったんだ。
……じゃあやっぱり、深夜に帰れって言ったのは、片倉さんが居ることを予測してたからだったんだ。
「……さすが」
思わず呟くと、片倉さんは不快そうに眉を寄せる。
と、体温計が音を立てたので、図らずも会話は一度途切れた。
「まだ熱ありますね。今日は店に出るの無理じゃないですか?」
「そうだな。うつすわけにいかねぇし。……幸紀(ゆきのり)入れっかな」
幸紀は馬場さんの名前だ。
「つぐみ、俺のスマホ知らねぇ?」
「鞄ならここにありますけど」
「ち、これも電池キレてら」
確かに画面は真っ暗だ。でもこれなら、私のケーブルでも充電出来そうだな。
「どうぞ。繋いでください」
自分のスマホからケーブルを抜こうとしたら片倉さんが止めた。
「でも、お前のも充電しなきゃだろ。いいよ、つぐみの貸してよ」
「でも私、馬場さんの番号は知らないんですよね」
「光流のはあるだろ。あいつに仕切らせる」
手渡したスマホを、何の迷いもなくいじり、通話する。
登録数がすんごく少ないアドレス帳が見られてしまってなんだか恥ずかしい。