有害なる独身貴族
『おう、光流。俺。……あ? 細かいことはどうでもいいんだ。俺今熱が出ててさ、今日出れそうにないんだよ。お前、調整してくれないか。明日の仕入れ分は一(はじめ)に聞けば大丈夫だから。ん、そう。え? つぐみ?』
そして私に差し出す。
「お前に代われって」
「はあ……もしもし?」
ドキドキしながら電話を受け取ると、数家さんの元気の良い声がする。
『店長とちゃんと話せた?』
やっぱり。
なんかもう、数家さんには敵わないや。
「いえ。……まだちゃんと話してなくて」
『何やってんだよ』
「だって。熱出して倒れられたんですよ。それどころじゃないでしょう」
『ふうん。まあいいや。房野は昼番? 休むか? 俺代わりに入ろうか』
「いえ。大丈夫です。出ます」
『でも、店長一緒に居るんでしょ?』
「だからこそ、代わりにちゃんと出ます」
まあ、私は調理は出来ないから、代わりにはならないんだけどね。
申し出は有りがたいけれど、数家さんと刈谷さんにとってだって貴重な週末のはずだ。
ただでさえ昨日面倒かけてしまったし、これ以上邪魔したくない。
電話を切ってから、準備をする。
炊飯器でおかゆを炊き、炊きあがるまでの間に身支度を整える。
釣られて動こうとする片倉さんを、慌てて押しとどめる。