有害なる独身貴族

『おう、光流。俺。……あ? 細かいことはどうでもいいんだ。俺今熱が出ててさ、今日出れそうにないんだよ。お前、調整してくれないか。明日の仕入れ分は一(はじめ)に聞けば大丈夫だから。ん、そう。え? つぐみ?』


そして私に差し出す。


「お前に代われって」

「はあ……もしもし?」


ドキドキしながら電話を受け取ると、数家さんの元気の良い声がする。


『店長とちゃんと話せた?』


やっぱり。
なんかもう、数家さんには敵わないや。


「いえ。……まだちゃんと話してなくて」

『何やってんだよ』

「だって。熱出して倒れられたんですよ。それどころじゃないでしょう」

『ふうん。まあいいや。房野は昼番? 休むか? 俺代わりに入ろうか』

「いえ。大丈夫です。出ます」

『でも、店長一緒に居るんでしょ?』

「だからこそ、代わりにちゃんと出ます」


まあ、私は調理は出来ないから、代わりにはならないんだけどね。

申し出は有りがたいけれど、数家さんと刈谷さんにとってだって貴重な週末のはずだ。
ただでさえ昨日面倒かけてしまったし、これ以上邪魔したくない。

電話を切ってから、準備をする。
炊飯器でおかゆを炊き、炊きあがるまでの間に身支度を整える。
釣られて動こうとする片倉さんを、慌てて押しとどめる。

< 166 / 236 >

この作品をシェア

pagetop