有害なる独身貴族


「でも、刈谷さんはきっと楽しみにしていたと思うので」


頭を下げたまま言うと、数家さんは一度動きを止め、にっこり笑って私の頭を撫でる。


「房野も女の子だねぇ」

「はあ」

「じゃあ任せようかな。馬場さんには連絡してあるから、ちょっと遅れるけど十時半には来れるって。下ごしらえは俺がしておいたから」

「数家さん、調理もできたんですか?」

「前の店では板前だったんだ、一応。しばらくしてなかったからビビったけど、まあ大丈夫でしょ」

「はあ」


なんて頼りになるんだろう。
片倉さんが、数家さんを良いように使うのも納得かも。

数家さんは私を厨房に連れてくると、大鍋をみせた。


「これを、煮立たせないように気をつけて火にかけといて。馬場さんなら見ればわかるはずだから。パートの水上さんも捕まったから、昼からでてくれるって。俺もまた16時には来るから、房野も今日は昼の忙しいところ終わったら抜けていいよ」

「はあ」

「店長のこと、頼むね」

私が着替えるのを待ってから、数家さんは店を出て行った。そこから10分もしないうちに馬場さんがやってくる。ガタイのいい馬場さんはTシャツにジーンズ姿だと土方系の人みたいだ。走ってきてくれたのか息を切らしている。

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