有害なる独身貴族



結局、私は夕方まで店に居て、出勤してきた数家さんは私を見つけるなり、呆れたように言った。


「房野、帰って良いって言ったのに」

「でも」

「まあいいや。店長に、鍵は俺が閉めて帰りますって伝えて。発注は仲道さんにやってもらったけど、休みそうならまた連絡くれって」

「分かりました」


片倉さん、熱、下がったかな。
食欲は復活したかしら。
着替えももう少し買って帰らないと足りないかも。

いろいろ考えながら着替えをすませ、店内に出ると数家さんがタッパの入った袋を差し出した。


「房野、馬場さんがこれ店長に食べさせろって」


お昼の残りのようだ。無言で野菜を切っている馬場さんにお礼を言って、私は店を出る。
途中のドラックストアでゼリー飲料を買い足し、庶民の味方の服飾店で安物のスウェットと下着上下を購入する。

まるで、家には帰しませんって宣言しているような装備を持って、部屋へと急ぎ帰った。


「ただいまです」


鍵を開け、扉を開けて驚いた。
看病する気満々で帰って来たのに、片倉さんがキッチンに立って料理をしてる。


「早かったな」

「なんで起きてるんですか」

「熱下がったから。とは言え鍵がねぇから出て行くわけにもいかねぇし。あ、着替え。ありがとな。風呂も勝手に借りた」

「ああ、はい。それは全然構わないんですけど」


返事をしてから、持たされた残り物に気づく。
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