有害なる独身貴族


「……なんで、13年前のこと、黙ってんたんですか?」

「つぐみも黙ってたろ」

「店長は覚えてないかと思って」

「俺もそう思ってたよ。あの時のガキが、まさか面接受けに来るなんて思わなかった」

「あの時点で気づいていたんですか?」


顔を上げて問いかけると、片倉さんからは目をそらされた。


「気づくだろ。……ほっとした。生きてたって思って」

「だったら言ってくれたら良いのに!」

「昔自殺しようとしただろってか? 失礼にも程があんだろ」

「あ」


それもそうか。

でも……なんだ。
最初から知られていたのなら、自分から言ってみればよかった。


「自殺未遂の子だと分かっていたから、私の事、あんなに心配してたんですか?」

「……うん。まあ、そうかな」


信用できる男と付き合わせようとするのも、食生活を心配するのも、みんなみんな、私が“可哀想な子”だったから?


「でも途中からは趣味みたいなもんになっていったな。つぐみが笑ってりゃ楽しいし。幸せになったのを見届けたら、許されるような気もした」

「……許される?」


不穏な単語が飛び出してきて、胸の奥がざわざわする。
片倉さんは、フーっと大きく息を吐き出してから私を見た。

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