有害なる独身貴族

不思議と涙が出なかったのは、昨日数家さんたちと話して、肝が座っていたからかも知れない。


「……私が、どうしてあの時自殺しようとしたか、知ってます?」

「いや?」

「私がいらない子だったからです。私の父母は、私が出来たから結婚したそうです。だけど二人の関係は私が十歳になるまでに修復不可能なくらいに壊れてしまったんです。離婚するのに揉めていたのは私の存在だったんです。どちらが引き取るか、が争点で、二人の希望はどちらも“引き取らないこと”でした。どうせいらない子なのだったら、死んでしまえばいいと思った。……なのに怖くて死ねない弱虫で、プライドばっかり高くて、人に泣きつくことも出来ない。自分が大嫌いだと思った時、あなたに“正しい”と言われて、私は心底、ホッとしたんです」


片倉さんの目が驚きの色をたたえて私を捉える。


「それ以来、あなたの言葉は私の指針だった。“生きろよ”って言ってくれたから、どんな時も生きようって思えた。その後、私は祖父母に引き取られたんです。住む場所が変わって、私はあなたを探す手立てを失った。でも偶然見つけて、居てもたっても居られなくて、だから面接を受けたんです」


気づいて。知って。
あなたの存在に、私がどれだけ助けられていたか。

あなたに助けるつもりがなくても、私がどれだけ励まされてきたか。

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