有害なる独身貴族

「ダメなわけ……ないけど。落ち着けよ、俺をいくつだと思ってる?」


どこまでも自分を土俵に乗せてくれない彼に、私も焦れきって苛々してきた。


「私は落ち着いてます」


そうじゃないの。難しいことなんてどうでもいいの。
私はただ、あなたが欲しいだけ。

めちゃめちゃにしたい衝動にかられて、彼の肩に手をのせ、のしかかるようにしてキスをした。


「……っ、おい」


目を見開いた彼に、力づくで引き離される。

あなたも驚いたでしょうけど、私も自分の行動に驚いてるんだよ。
それもこれも、片倉さんが強情だからいけないんだから。


「嬉しくないですか? 私は嬉しいです」

「……つぐみ」

「ふぁ、ファーストキスです。それが片倉さんで嬉しいです。……まあ、奪ったようなもんですけど」


顔が熱くて涙目になってきた。声が潤んで、話すのももう限界。
これでダメならもう頑張れない。


「……参った」


目の前の片倉さんは、両手で頭を抱えて大きく息をついた。
そして顔を上げると、私をグイと引き寄せて再び唇を重ねる。


「ん、……ふっ」


私がした臆病なキスとは違う、息が止まりそうな激しいキス。

苦しいけど離れたくなくて、彼のシャツをギュッと握る。
開放された時には酸欠に近くなったのか目がチカチカした。


「……お前が望んでるのはこういうことだぞ。俺は怖いんだよ。深入りしすぎてお前を壊すのが」


ようやく聞けた。
多分、これが片倉さんの一番の本音だ。

救われたいくせに、誰かを壊すのが怖すぎて深入りできない。
自分が誰かを幸せに出来ることを、信じられない臆病な人。
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