有害なる独身貴族


「怖くてもいいから傍に置いておいてください。……私は勝手に幸せになりますから」

「つぐみ」

「そして“幸せになれ”って言い続けててください」


片倉さんが、泣きそうな顔で私を見つめる。
私は、これでもかってくらいの笑顔を作った。


「私は、片倉さんの言いなりですから」


目の前で、片倉さんの瞳が揺らぐ。
次の瞬間には抱きしめられて、私も抱きしめ返して彼の背中を撫で続ける。


「……もう、お前にはかなわん」


涙声でそう言われて、くすぐったいような幸せな気持ちになる。


「今また一つ幸せになりました」


心の中で、茜さんに感謝する。
茜さんのお陰で、分かったような気がします。

私は言い続ければいいんですね。
彼といて、幸せになれる自分のことを。


それだけが、彼の硬い殻を破る方法だったんだ。




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