有害なる独身貴族
「……なので、もう一年くらいおじいちゃんとは会ってないんです」
言い終わって俯いたら、大きな手に頭を引き寄せられた。胸板にぶつかって、彼の心音が聞こえる。
「バカ。もっと早くに言えよ。お前ほんとにひとりぼっちなんじゃねぇか」
優しく頭を撫でてくれる。温かさにじわりと涙が滲んでくる。鼻をすすって、バレないように明るい声を出した。
「はい。だから【U TA GE】の皆が家族みたいに優しくしてくれるの、すごく嬉しかった。ひとりぼっちだけど、寂しくなかったのは片倉さんのお陰です」
「……お前はほんとに……」
片倉さんは私の頭に自分の頬をのせて、吐き捨てるように言う。
「俺のせいだろうに。馬鹿だな」
「片倉さんのせいじゃないですよ。全部自分のせいです。私の説明が足りなかったから心配かけてしまった。もっとおばあちゃんが安心できるように話せば良かったんですから」
「違うよ。ばーさんは、お前が好きだったんだよ。だから安定した道を選んで欲しかったんだ。自分が望んだ方向と違う方に進まれたら、気が気じゃなくなったんだろう」
反抗期の娘に戸惑う親のようなもんだろう、と続けられて納得すると同時に思い立つ。
「それって片倉さんにも似てますね」
さっきまでの頑なな態度がまさにそんな感じだったと思って言ったら、彼は一瞬渋い顔をしたものの、確かにそうだとでも思ったのかやがて笑い出した。
「……ばーか」
頭をくしゃくしゃとかきむしられて、嬉しくてドキドキする。
この安心感は、おばあちゃんに似てるからってのもあるんだなぁ。