有害なる独身貴族
片倉さんは唇を手に当て、考えこむような仕草をしてからポツリと言った。
「そのじいさん、連絡先は分かるんだろ?」
「はい。一応、父親は私の保証人なので」
「だったら。一度食事に招待しろ。今のお前を見せてやれ」
「え?」
「俺も挨拶したい」
意味がわからない。
挨拶とは、なんですか?
「えっと、挨拶?」
問い返すと、頭を軽くこづかれた。
「お前は俺が要るんじゃなかったののかよ」
「えっ、要ります要ります」
要るけど……そんな一気にそこまで?
私がアワアワしているのなど気にも止めずに、片倉さんは滑らかに自分の考えを語る。
「だったら、けじめは必要だろ。こんな歳の離れた男じゃ心配させる材料になるだけかもしれんが、お前が一人で居ることをじいさんはきっと心配してるはずだ。せめて一人じゃないことくらい教えてやれ」
「で、でも。おじいちゃんはもう私のことなんて」
「一度意地はったら崩せないもんなんだよ、男は。いいから呼べよ。なんなら父親の家族も一緒でいい」
「は、はあ」
お父さんなんてもっと関わり合いたくないけどな。
しぶしぶといった体で頷くと、片倉さんが私の顎を持ち上げる。