有害なる独身貴族
【U TA GE】について裏口から入ると、すぐ見える厨房には誰もいない。
不思議に思って客席に向かうと、本日フル当番予定の数家さんと片倉さんに加え、何故か北浜さんが混ざって話していた。
「やあ、つぐみちゃん」
「こんにちは、北浜さん。どうかしました?」
今は三時。昼の営業は終わって準備中の時間なのに。
「昼飯を食べがてら片倉の話を聞きに来たんだ」
「話?」
「ちょっとこっちおいで」
北浜さんは席から立ち上がると、私の肩を抱いて小上がりの方へ引っ張っていく。
あれ? なんか妙に親しげ。
いつもは北浜さん、紳士的なおじ様って感じなのに。
「ありがとうな、つぐみちゃん」
「あの、北浜さん。私、訳がわかっていませんが」
「片倉と付き合ってくれるんだろう。いやいや、良かった。これで私も安心だ」
火がついたように顔が熱くなる。
な、なんで? なんでもうバレてるの。
「いや、あの」
「違うのかい?」
「いえ、違いませんけど。どうしてそれを」
北浜さんはくすくす笑いながら、一度片倉さんの方を見て小声で続ける。
「片倉が朝から電話かけてきて、『今までで一番旨いって思った鍋はどれですか』って聞くからさ。いきなりだよ? 驚いてなにがあったか問い詰めたけど、電話じゃ要領を得ないから、昼を食べにがてら聞きに来たんだ」
ああそれで。
昼の時間終わってから語り合っていたと言うわけなのかな。