有害なる独身貴族
片倉さんの家はアパートではなくマンションで、連れてこられたのは7階の角部屋だった。
「ほら、つぐみが開けろ」
促されて、恐る恐る鍵穴に差し込み、鍵を回す。
開けてすぐの玄関スペースには普段履き回している靴が二足転がっていた。
そのまま廊下が続いていて、左手にキッチン、奥にリビングと寝室がある。
「凄い、広いんですね」
「ずっとひとりで住むつもりだったから、一部屋与えられるほどは広く無いんだ。どこでも好きに使ってくれていいから」
「お風呂もトイレも別だ。凄い!」
「掃除は分担な」
こんな広い部屋で、橙次さんと一緒に暮らせるなんて贅沢過ぎる。
この一週間で、世界が一変したみたいだ。
「なんか、……信じられない」
「なんで」
「だって、こんなに幸せになったらバチが当たりそう。いつ目が冷めてもおかしくない夢みたい」
「やめろ。夢にすんな。俺だって信じがたいんだから」
焦ったように抱き締められる。
うん。夢じゃないね。
だって、橙次さんがちゃんとここにいて、こんなにも温かいもん。
そのまま、どちらからともなくキスをした。
繰り返し重なる唇は、やがて熱い吐息を内包したものになる。
「……これ以上はやばい」
腕を伸ばして、私との距離を開けようとする彼に、自分から抱きついた。
「も、いいです。我慢してくれなくても」
火がついた……のだと思う。
唇を重ねるたびに、体の中心がどんどん熱くなって、それが怖いとか痛いとかいうマイナスの感情を燃やしてしまったかのように、彼に触れていたいという欲求ばかりが大きくなっていく。