有害なる独身貴族


「触って欲しいです。……あの、私、はじめてで、どうしたら良いか」


わからないんですけど、と続ける前に再び唇を塞がれた。
私を抱き上げた片倉さんは、そのまま寝室へ行き、壊れ物を置くようにそっとベッドに私を寝かせる。


「嫌だったら言えよ」


電気が消されて、私の体の上にかぶさるように片倉さんがのった。


「んっ」


唇が、目の下や頬、耳たぶを濡らしていき、大きな指が、ぎこちなく私の服をまくりあげていく。
肌を滑る彼の手のひらは優しく、まるで魔法みたいに私の体をどんどん熱くしていった。


「……っ、んっ」


シーツを握りしめながら、初めての痛みを堪えた。

涙は全部彼に掬い取られて、労るように優しく、体中にキスをされた。
こんな風に全てを誰かにさらすなんて、あり得ないって思っていたのに、今は体中が満たされた感覚がする。

私の人生の一点から、心のなかに住み続けていた橙次さん。
その彼が、今肉体を伴って私の傍にいてくれる。


「橙次さん、私……」

「ずっと俺の傍にいろ。ずっと一緒に……」


一緒に生きよう。

囁かれた言葉に、何度も頷いた。
一度触れ合ったら、それが自然な気がして、何度も何度も肌を重ねる。


「好きだよ、つぐみ」


思えば、態度では沢山表してくれたけど、言葉で好きだと言われたのは初めてかも知れない。


熱い息を、声を、上げ続けた長い夜。
明け方に、朦朧としながら眠りについた。


翌日、起きた時には片倉さんはもう出勤していて、机の上には朝ごはんと合鍵が置いてある。
慌てて起き上がって、体中に散らばる痕を見て、恥ずかしさで再び布団に沈み込んだ。


その日、私は一日中彼の顔をマトモに見られなかった。



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