有害なる独身貴族
なるほど、聞けば彼なりの論理はあるんだな。
それにしても色々急展開過ぎて目が回りそう。
ついこの間まで彼氏いない歴イコール年齢だったのに、今は結婚の話をしているなんて。
「橙次さんは私を甘やかし過ぎですよ」
「それはそうかもな。甘やかしたいんだ、仕方ないだろう」
そんなさらっと、凄いこと言わないで。
顔が熱くて耐えられなくなってきた私は、ぺしゃんとテーブルに突っ伏す。
「……俺、もしかして重いか?」
心配そうな顔で覗きこまれて、思わず笑ってしまう。
あなたはどこまで私を甘やかせば満足するの?
こうなったら甘やかし返してみようかと、彼の頭に手を伸ばし、いつもしてもらえるように頭を撫でると、安心したように目元が緩む。
……こんなふうに笑ってくれるなら、確かに嬉しいかもしれない。
「そんなことないです。嬉しいですよ」
「ホントかよ」
頭から頬へ手を移動させ、彼の頬を両手に挟んで覗きこむ。
「ありがとうございます」
「ん?」
「おじいちゃんに会えるの、嬉しいです」
「……うん」
ホッとしたように、彼の手が私の方に伸び、お互いが頬を抑えあうという不思議な構図になる。
体を起こして前のめりになった彼は私の唇をさらうと照れたように笑って立ち上がる。
「風呂はいってくるわ」
「……いってらっしゃい」
彼の背中を眺めてから、入り口近くに飾ったおばあちゃんの写真に目を向けた。
ねぇ、おばあちゃん。
この人が私の好きな人だよ。歳は離れているけど、誰よりも私を大事にしてくれるよ?
……おばあちゃんにも会って欲しかった。
誰よりも、おばあちゃんに見せたかったよ。